『あひる』今村夏子

 

 

こちらあみ子』で太宰治賞、三島賞をかっさらった今村夏子である。今作は、翻訳家の西崎憲が発起人の文学ムック『たべるのがおそい』の創刊号に収録されており、福岡の出版社・書肆侃侃房より発行され、その中の『あひる』今村夏子が芥川賞にノミネートされ話題となった。

 

こちらあみ子 (ちくま文庫)

こちらあみ子 (ちくま文庫)

 

 

 三島賞のインタビューで「今は特に書きたいことがない」と言ったまま引退状態のフェードアウト。「ほんとになかったのか!」と思いながらも、文庫化したあみ子にハァハァすることくらいしかできなかった。(このハァハァは、興奮しているのかトラウマを思い出し反応しているかは考えない)『あひる』が単行本化されるか不明だがkindleなどでも読めるので、ぜひ手に取ってほしい。

(追記 11月18日頃単行本発売予定です。書き下ろし2作入り!?アメトークの読書芸人でオードリー若林さんがおすすめしていました。)

ネタバレ 含みます。

 

 

 

あひる

あひる

 

 

 

 さて『あひる』はタイトルのとおりあひるを中心とした人間模様が描かれているのだが、一筋縄ではいかない。父親の知人から譲り受けたあひるに近所の子供達が集まりだし、たまり場になっていく話なのだが、あひるの名前が『のりたま』ということにほのぼのしながら読み進めていくと所々で事故る。小さな生きがいを見つけたとは対照的にあひるは生活環境の変化やストレスから衰弱し病院へ。しばらくして帰ってきたあひるは…

 

おかしい。

これはのりたまじゃない。

 

 三代目j Soul brothersもびっくりである。まぁ、この辺はジャブですよジャブ。現実は、小説より奇なりです。違和感に気づいたけど何も言えないわたし。なんとも言えない空気感がシュールで笑っちゃいますね。でも、これも朝飯前です。母親は、後々うちによく来ていた子供から、きちんとしっぺ返しされることになります。子供は残酷で正直です。

 「本物ののりたまってなんだよ」と心のなかでツッコミつつ話は進みます。来客が増えたり減ったりして両親が一喜一憂しているところに珍客が来ます。

ぼく忘れ物しちゃいました

 そう言って家に来た男の子。父も母もなんとなく見たことある気がする子供が、ガイコツのキーホルダー付きのカギを探して、夜遅くにカレーとケーキを食ってすぐ帰る。ググっても答えは出ませんね。そんな彼を訝しみ、どっかで見たことあるような気がしてあれこれ一晩中考えた結果、わたしは…

のりたまのくちばしに生クリームがついてないか、 確かめずにいられなくなったのだ。

 おいおいどっかで聞いたことある話だな。お伽話かい。鶴の恩返し。鴨か。あひる。ええこら拡大解釈拡大解釈。まぁ、でも両親も満足したしいいか。てな感じで、ほんとうにどうでもいいことがあれよあれよと出てきては引っ込んでいく小説です。代わりは、いくらでもいますからね。生きねば。おおよそのことは、「なんとなく」「まっいいか」で済ませられるというこの世界の不条理をペタペタと土足で踏み荒らす。この小説は、短いながらも、誰かと話したくなるような何とも言えないエピソードに溢れている。

 今回、タイミング的にもちょうどよく初kindleで読み進めたのだが『あひる』スマホ読むのがいいかもしれない。指をスライドさせてページをめくるのだが、これが不要なタブを閉じる時の動作と重なり妙に哀愁を感じてしまったのだ。ネット社会になり、なんとなく画面を消したり、せっこらせっせと新しいタブを開いて何事もなかったように、数秒前の何かを調べ記事を読んでいた、あたしはどこへやら。お星様になったのかな。R.Y.U.S.E.I.それでも、この小説で特に忘れられない描写が一つある。

「人がいる」

 いつもどおりうちにきた男の子が小屋にのりたまがいないことにびっくりして叫ぶシーンなのだが、その声に驚き二階の窓から顔を出したわたしにギョッとした男の子が放つこの台詞。読んでいる最中に「ん?」ページをめくり返す。「む?」「むむむ」誰が読んでもここで一旦立ち止まるだろう。幽霊なのか?いや、違うその後母親が娘と説明している。子供は残酷だ。なんなんだこの落ち込んでいる時に限って改札に引っかかってしまったような、スマホのタッチパネルがなぜだがうんともすんとも言わない、マックで延々と「かざしてください!かざしてください!かざしてください!ブブかざかざ…」自販機で野口英世が笑いながら戻ってくる。あああ。生きてんのに死んでるみたい。いるのにいない。Babyboyわたしはここにいるよ。なんか色々ホラーですね。さてなんだかもう、疲れたのでポケモンGOでもして気分転換しますね。はて、なんかいろいろ書きたいことがあった気がするんだが、まっいいか。

 

 

文学ムック たべるのがおそい vol.1

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