『虫歯になった女』ノリ・ケンゾウ

 よく噛んで食べなさいとよく言われる。あーしは、早食いだ。しかし、めんどくさがりでもある。だから母親の言いつけどおりによく歯磨きしとけばよかったと思う。あーいっそ全部抜いちまってバナナマンの日村みたいに…お金があればなぁ。
                                                          ≪チャレンジ≫

 ノリ・ケンゾウ『虫歯になった女』で判定を覆そうと奔走する姿は、テニスで言うチャレンジシステム。様々なスポーツで扱われ導入が検討されている機械判定技術のようだ。

 虫歯ではない状態がアイデンティティであるとして、それを支えに生きてきたこの女に親近感をおぼえ感情移入せずにはいられない。絶対に負けられない戦いがそこにはある。あーしは、脇毛がハエていない。

 いつかはやってくるだろうと気長に待ち20をすぎた頃からそういうもんだと割り切った。生えない人間もいるのだ。しかし、家族を見渡してもなかなかのものをお持ちである。ホルモンバランスから無精子症を心配し、同じ症状の有名人に安心し、心身は特に疲弊もしないので四半世紀ほうっておいた。意識すればするほどむず痒くなるものでなんだかムズムズする。したらば先日、一本生えた。右脇だけ。

 これが嬉しいのなんのその、悲しみも挨拶してこない。動揺してはいるんだろうけど、ないならないで困らない。今後の予定がわかればいいのだが、どうなるのだろうか。いっそレーザーで…永久…数本の為?この話なに?

≪チャレンジ≫

 さて『虫歯になった女』では、力技でアイデンティティを取り戻すのだが再起動か強制シャットダウンかなんともいえないところだ。しかし、大きく見れば人間も同じように成功し失敗し繰り返し進歩し後退している。思い込みでこの世界を漂っている。何かが失くなったら、また他の何かで埋めるしかない。抜いたらまた出てきますか?

 『虫歯になった女』ノリ・ケンゾウは、書肆侃侃房の文学ムック『たべるのがおそい vol.3』に収録されています。今村夏子、最果タヒ星野智幸山尾悠子、セサル・アイラ、黄崇凱、相川英輔…厄介な作家ばかりです。さらっと読んでもじっくり読んでも読めた気はしませんが気持ちいいのはたしかです。あなたも重力から開放されてみませんか。

≪チャレンジ≫

 

文学ムック たべるのがおそい vol.3

文学ムック たべるのがおそい vol.3

 

 

 

文学ムック たべるのがおそい vol.2

文学ムック たべるのがおそい vol.2

 

 

 

文学ムック たべるのがおそい vol.1

文学ムック たべるのがおそい vol.1